支部長雑感

あなた自身でお決めなさい

2014年08月13日

1991年4月、私は仕事中に不注意から左眼を怪我しました。

病院での診察の結果、網膜剥離でした。
ショックでした。
そして、網膜の剥離を食い止める手術をするための入院となりました。

今回は、その網膜剥離の手術の為に入院した病院でのお話です。

入院したのは、熊本市内にあるI病院というところです。
この病院は、網膜に関しては世界的権威であるI先生が院長を務めておられました。
興味深いエピソードとして、網膜を患った熊本在住の患者さんが東大病院に診てもらおうと上京したところ、東大病院の医師から「熊本の方なのに東京にいらしたのですか。熊本にはI先生がおられるではないですか。」と言われたそうです。

病院には、I先生の下(もと)に多くの眼科医がおられました。そして、私の眼の術前診断には担当の若い医師が就かれました。入念に、破れた網膜の状態をカルテに図として書いていくのです。

入院している時に、ずっと考えていたことは「空手は続けることが出来るだろうか?」ということでした。
私自身も苦しみましたが、家族にも心配を掛けました。そんな時、空手を続けたいと頼むのですから、家族も困ったことだったでしょう。

通常、網膜の手術は、糖尿病の合併症である網膜症の手術が多く、外傷による網膜剥離は珍しいものと思われ、そのようなことからI先生自らの執刀となりました。
I先生に「私は、明日から学会があり、3日ほどいませんが、瀬野さんの手術は私が執刀したいので、その間待っていただけますか。」と仰っていただいたのです。
私としてもI先生に執刀していただくのが一番の希望でした。当然、待ちました。

そして、手術日です。
直接眼にメスをいれる手術でしたので、とても緊張しました。
しかし、無事に終了しました。

術後の診断も良好でした。
入院は2週間ほどですみました。

その間、私の心の中は、悶々としていました。今後、私は空手が出来るのか、医師の判断を仰がなければいけません。

手術後落ち着いた頃、術前でお世話になった担当の医師に尋ねました。
「あのー、僕は、今後空手は出来ますでしょうか?」
「ぶるるるっ(首を振っている音)! 空手などとんでもない! 次に再び目を強打したら、眼球破裂で失明しますよ!」

失意の中、退院前の院長検診の日が来ました。
I先生も、私が空手の継続を望んでいることをご存知です。

院長検診は、父と一緒に受けました。
I先生に私の眼を診て頂いた後、父がI先生に詰め寄りました。

「先生!こいつに空手をやめるよう言ってください!」

黙って聞いておられた先生は、私に向かって、次のようにおっしゃいました。

「あなたが今まで空手で学んだことと、そしてこれからの人生を考えて、あなた自身でお決めなさい。」

私の人生で、忘れられない言葉のひとつとなりました。
私は空手を続けました。

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