2025年10月27日
自然界において、動物はその摂理に従って生きています。
老いればその寿命に終わりを告げます。
そこに、自らの命が尽きるのに抗って、さらに寿命を延ばそうと抵抗する姿勢は見えません。
しかし、人間だけは違います。
寿命が果てるのに抗って、頑張って生きようとします。
言い換えると、人は日常生活において、年齢からくる老い、筋力の低下、気力の減少、行動力の低下などに抗って、少しでも自らを人生の先へと進めようと努力します。
私は、これを素晴らしいことだと思います。
本来、何も努力せずとも、だれも咎めません。
しかし、人は自らを省みて、以前の自分より今日の自分が良いものになるようにと願う心理を、長い人類の歴史で獲得してきました。
はるか昔から続く現代までの文明の発展がそのよい例であると思います。
さて、この一般論は、武道に妥当するでしょうか。
武道家が辿るかもしれない、例えば、若いころの膂力に満ち溢れた動きから、歳を取るにつれ筋力が衰え、気力が萎え、技の切れがなくなり、とうとう若手に追い越され、あげくに残った己の個体が情けないものとなる。
ああ、歳を重ねた武道家には、もう何も残されたものはないのでしょうか。
否、真の武道家はこれらを断固として拒否します。
日ごろから継続している厳しい鍛錬で筋力の衰えを抑え、いや逆に向上させ、そして、技術としての動きの滑らかさ・無駄な動きの排除・こなれた拳足を駆使する等、洗練させます。
気力の萎えを、長年の修行において掴んだ平常心、明鏡止水の心に置き換えます。
こうして、これら修得した肉体及び精神を自身の武道的身体操作に十分に作用させ、若手の勢いを簡単に阻止します。
さらに、継続した、また充実した稽古の果て、己の個体を、歳を重ねる毎に光り輝かせていく。
そう、常に目の前の困難に抗う。
そのための努力を惜しまない。
何もしなければ、両親からいただいた己という財産を、いたずらに歳を取って失うだけの人生になります。
逆に言うと、抗うだけの価値がある人生を送り続け、そして、さらにも増して次なる困難に抗うこと。
これこそ、武道家として、果ては人として、光り輝く人生だと思います。
押忍
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