2020年12月28日
以前従事していた業界団体の理事を務めていた時に、該団体の講演会の講師として、著名な歴史家のK先生をお招きしたことがありました。
K先生を空港へお迎えに行き、講演会場へ向かうタクシーの中で、非常に興味深いお話を伺うことができました。
今回はそのお話です。
先生は、訳があって30年以上前に、熊本の人吉・球磨地方に数年間滞在されていたとのことです。
それは、この地方に伝わる「タイ捨流」を究めるためでした。
「タイ捨流」というのは、丸目蔵人という桃山時代・江戸時代初期に活躍した剣術家が興した流派です。上泉伊勢守信綱に新陰流を学び、その後、より実戦に即した剣法として自流を興した人物です。立花宗茂を始めとする九州地方の武将がこぞって丸目蔵人に師事した事実が残っています。
先生は歴史学者としての他に、武道家としての顔もお持ちの方でした。
この「タイ捨流」を、先生は熊本で何年にも亙って修行されたのです。
そして、功成り免許皆伝となりました。
晴れて免許を得た先生は、帰京することになりました。
人吉・球磨地方は熊本県の南に位置しております。
東京に帰るには、一旦熊本市に行き、そこから飛行機などを使うことになります。
しかし、数年間、地方に籠もり修行に明け暮れた果てに、先生は手持ちがほとんど無くなっていたのでした。
はて、困りました。
残りのお金をかき集めて、汽車を乗り継いで、なんとか熊本市まではたどり着きました。
ここで、とうとうスッカラカンになってしまいました。
財布の中に何もない先生は、トボトボと熊本市の繁華街を歩いていました。
「どうしようか」
うつむきながら歩く足取りも元気がありません。
途方に暮れていた時、ふと顔を上げて前を見ると、古い石造りの新聞社の社屋が目に入りました。
そこは熊本で一番の部数を誇るK新聞社でした。
「・・・」
先生は、足を早め、その社屋に飛び込みました。
バン!
ドアを開けると、受付に男性社員の方が座っていました。
その方に、
「私は歴史研究家です。
モノを書きますので、お金をください!」
と頼みました。
まだ無名であられた先生の申し出を聞いて、受付の男性は考えました。
「面白そうな人だな。そうだな、よし。」
と快く、先生の申し出を受け入れ、歴史の論文を書いてもらいました。もちろん、その論文は、後に新聞紙面に掲載されました。
先生は有り難く原稿料を頂くことができました。
かくして、先生はその報酬で無事に東京へ帰ることができました。
ちなみに、先生の申し入れを受け入れた受付の男性は、のちにその新聞社の重役になられたそうです。
……
今年は、コロナに始まり、コロナに終わりました。
閉塞感といえば、この上もない一年であったと言えます。
何をすれば現状を打開できるのか。袋小路にハマってしまった時、どうすれば良いのか。
解決の一つには、今回の先生のように、思い切って未知の場所に飛び込むというのもあるのではないでしょうか。確かに、この先生の行動は、強く、そして、したたかさのある行動であったと思います。
来年はどういう年になるでしょうか。
とにかく「行動すること」が、自身の強さを作ってくれると思います。
そして、したたかな自分になるために、思い切って未知の場所に飛び込みたいとも思います。
押忍
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