支部長雑感

基準性

2021年12月29日

角聖双葉山は、現代においても最強か?大鵬と北の湖はどちらが強いのか。木村政彦と山下泰裕が戦えばどちらが勝つのか?
往年の名選手たちで、直接戦ったことのない二人のその強さを比較したりします。いろいろな角度で検証したりして、自由に思いを馳せることができます。

実際、あの選手はとてつもなく強かった、この師範は最強だったなどと聞いても果たしてどれだけ強かったのかは想像できません。
確かに、比較する対象、すなわち基準がないと、どれだけ強かったかは全くわかりません。
科学の世界のように実証することのみを是とする分野では、証明されたもの、事実こそが真価であり唯一信じられるものです。
武道の世界で、それが叶いますでしょうか。

私たちの団体、芦原会館の創始者である芦原英幸先代館長も、そのご生前、「ケンカ十段」と呼ばれるほどの強さを謳われておられましたが、はたして実際のところはどうだったのでしょうか。
我々門下生は、その強さを目の当たりにしてきました。しかし、どれだけ私たち門下生が「先代館長はとてつもなく強かった」と主張しても、外部の方々からは、それは身内に対するお手盛りにしか聞こえないのではないでしょうか。

しかし、その実、先代館長はご生前、実際に基準となる空手家と戦ってその強さを実証されてきました。
記録に残る実例はとても多く残されております。それこそ強豪たちとの戦いが相当な数にのぼったのです。
今回は、その中で2つほどご紹介したいと思います。

現在、いわゆる実戦空手の団体と呼ばれている多くの組織が開催している全日本大会や世界大会は、毎年かなりの数にのぼります。
毎年、何十人も日本チャンピオンが生まれます。
しかし、その源流としては、1960年代末になりますが実戦空手界初の全日本大会が開かれました。直接、拳や蹴りを相手に当てて強さを競う大会は、それまでなかったのです。
日本で唯一のものでした。日本初ということは世界初ともいえます。

主催した団体は、先代館長が師範を務めておられた団体でした。大会開催の頃、先代館長は、既に指導者としての活動が多くなっておりました。なので、その全日本大会には選手として出ることはありませんでした。噂では、その団体の長である方が、先代館長が全日本に出ると結果が決まってしまうので、あえて出さなかったという話もあります。

さて、その全日本大会の第1回が1969年に開かれました。日本初の実戦空手大会で、そして日本チャンピオンが誕生しました。
大会後、先代館長は所用があって該団体の総本部に赴きました。
道着に着替えて道場に入ると、その第1回大会で3位に入った選手が練習をしていました。その方は当時、総本部の指導員をされていたそうです。
先代館長はその方に話しかけました。
「君が〇〇君か?」
「押忍」
「3位なんだってね。組手しようか?」
「押忍、お願いします」
ということで、二人は相対峙しました。
結果は、先代館長の秒単位での圧勝でした。

2つ目は、少し年数が経ち、第10回大会(1978年)の時のことです。
10人目の全日本チャンピオンが生まれました。ここまで年数を数えると、選手層が厚くなり、大会の規模も大きくなりました。
実は、この年のチャンピオンは、先代館長の直弟子でした。
先代館長も、ご自身の弟子がチャンピオンになり喜んでおられました。

大会開催から数日が経ち、道場での稽古の日常が戻ってきました。
そして、組手のある日になりました。
道場で、先代館長は、弟子である現役の日本チャンピオンと組手をすることになりました。
その時、そのチャンピオンはこう思われたそうです。
「今なら勝てる!」と。
それはそうでしょう。
当時の日本空手は、もちろん実力として世界一のレベルです。
その日本で唯一の直接打撃制全日本大会で優勝したのですから、実力世界一です。
今なら師匠に勝てると思っても無理はありません。

以前もお話したように、先代館長は感覚的にとても鋭い方でしたので、すぐにチャンピオンである弟子の心理に気が付きました。
「こいつ、本気だな」と。
それならば、それなりの気持ちで臨もうと。

結果は同じく瞬殺でした。
相手にならなかったそうです。

……
今回は、われらが師の自慢のお話になりましたが、これには基準性があり、むやみに訳もなく過去の「ものがたり」を披瀝しているのではないことが分かっていただけたのではないでしょうか。
もちろん、師が強かったからといって、自分が強いわけではありませんので、ここは謙虚に稽古を続けていかないといけません。
しかし、先代館長の強さがどれほどのものであったかが、ちゃんと基準をもって示されていることには、喜びと誇りがあります。

押忍

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T先生

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