支部長雑感

芦原会館の宝

2023年02月27日

日本の空手をご存じの方は、芦原会館の宝といえば、すぐに「それは『サバキ』でしょう」とお答えになると思います。
もちろん、正解です。
「サバキ」は、他の空手と一線を画すものとして一般に周知されています。
力の空手や攻撃一辺倒の空手と違い、受けの妙技、サバキの技術、それを活かす間合いの感覚など、芦原カラテの大きな特徴であります。

しかし、私は、芦原会館には他にも宝があると思っております。
それは「自由な発想」です。

かつて、芦原英幸先代館長(以下、先代館長とします)が出身母体である実戦空手界最大の団体の総本部に所属されていた頃、昭和30年代のお話です。
先代館長は、道場の先輩方3人がタイでの本場「ムエタイ」の一線級の選手たちと闘ったフィルムを見て、早速、ひとり道場稽古にて、ムエタイでは当たり前の「回し蹴り」や「背足の蹴り」を取り入れた稽古を始めました。
そして、それは後には、その団体の、ひいては空手界の一般的な技術にまで普及していきました。
それまでは、空手の蹴りといえば、ほとんど前蹴りしかありませんでした。
現在でも、流派によっては、回し蹴りは前蹴りの派生的なものでしかないとか、足指を返したいわゆる中足の蹴りしか認められていないというところも、数多くあります。

前も書かせていただきましたが、先代館長が空手の技術を考えられるときに、いかに人間の身体操作に適うものはないものかという視点から、基本稽古の指導の際、腰を切ることを強調された動きを取り入れられました。
それが、当時の組織の長や先輩方に嫌われたというお話もあります。

しかし、後々芦原会館を立ち上げられ、先代館長のご指導を受けた我々門下生からすると、それはごく当たり前の身体の流れであり、ごく自然の武道的動作であります。
もちろん、「サバキ」も、これら先代館長の「自由な発想」から生まれたものです。

山内文孝前熊本支部長(以下、支部長とします)も、ご生前によく話されていたことがあります。
それは、芦原空手発祥の地、八幡浜道場での猛稽古の果てに行き着いた、先輩方道場生の空手のことです。
「八幡浜の先輩たちは、それぞれ全く違う動きをされていたよ。それはそれは皆さん強かったぞ。」
支部長からお聞きした話ですが、たとえば、相手の攻撃を独特な受けで無力化し、そしてその相手を全て蹴りで倒した先輩(支部長は見ていて、蹴りをもらった相手が眠るように倒れていったとか、朽木のように倒れたとか話されていました)とか、また、攻撃を捌いて相手をことごとく後ろ向きにさせてしまう先輩(この方は、全国大会でこの全ての人を後ろ向きにしてしまう技を使いすぎて反則負けになったそうです)とかおられたそうです。

八幡浜道場時代の先輩方は、もちろん先代館長直々のご指導の下、猛稽古が当たり前の世界で、実力を成した方々です。
かといって、先代館長の動きを模して、それにあくまで従った、又はなぞった動きばかりをしていたのではありません。
独自に自身の空手を作り上げていかれたものと思います。
そして、先代館長は、それを是としたものだと。

このような「自由な発想」は、当たり前ですが、現在の芦原会館にも受け継がれております。

あくまで、基本を守りつつ、その上に新たな発想で技術として立脚させていく、このような精神、組織でいえば雰囲気を持つことは、空手というカテゴリーに限らず、人間の、またあらゆる組織の営みには必要なものではないでしょうか。

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