支部長雑感

ハイC

2019年01月31日

表題は、健康食品の商品名ではありません。

オペラの世界で、テノール歌手の中で一流と言われている方が出せる音階のことです。ハイC(ひとつ高い方のド)が出せるか出せないかが良いテナーか否かの分水嶺だと言われているようです。
テノールは、男性が裏声を使わずに声を出します。そして、ハイC(もしくは更にD♭まで出せる方も)まで限界を引き出して歌うのです。それも、なめらかな声で。
ちなみに、ヘヴィメタルのヴォーカリストが非常に高いキーを歪んだ声で出していますが、あれはファルセット(裏声)です。

私は、オペラに関して全くの門外漢ですので、あまり説明を続けるとボロが出ますので、この辺りで。

先日、M先生という私の中学時代の恩師と食事をしました。
M先生は音楽の先生でした。私は、先生のいつも凛とした態度や話し方などから人格的感化を受けました。
M先生は、中学、高校で音楽を教えられていましたが、その後、ある音楽大学から請われて声楽を教える教授となられました。
また、現在でも音楽活動の一環として、オペラを催す会を主催されておられます。教え子であるオペラ歌手や演奏家の方々を従えてコンサートを定期的に開かれています。
私も過去に3回ほどチケットをいただき、そのオペラや演奏会を聞かせていただきました。

M先生との食事の中で、とても興味深いお話を伺うことが出来ました。

その前に。
今日のお話の冒頭で、人の声の音階のことをお話しました。
私は、「声」を出す喉も筋肉なので、武道と同じく鍛錬を続けなければ、衰えていくものであることは知っておりました。
例えば、テレビなどで観る歌手の方で、年齢が上がっていくにしたがい、声が出にくくなる、細くなる、キーが下がってしまう人は、加齢のせいだけでなく、鍛錬の不足のせいもあると思います。
逆に、お年を召しても、迫力のある、表現力のある、キーが下がらない歌手は、日頃から非常にハードな練習を続けておられるのに間違いありません。

さて、M先生との食事の際、このことに関して先生は、
「鍛錬もさることながら、むやみに練習しても成果は上がらない。声を出すために肝要なのは、突き詰めれば『腰の使い方』だよ」
とおしゃいました。
私はびっくりしました。
更に、
「若い頃、力に任せて声を出していた歌手が、少し年齢が上がると見る影もなく衰えていく様を、何人も見てきた。年齢が上がっても、同じレベルを保つためには身体の使い方を学ばないとダメなんだ。はっきりいうと『脱力』なんだよ」
と話されました。

私は眼をパチクリしました。
武道家からお話を聞いている錯覚に見舞われました。
武道の稽古や考え方そのものではありませんか。

M先生は御歳78です。
最初にお話したハイCを現在でも楽々とお出しになります。食事の後、先生のご自宅で、その艷やかな高音を聞かせていただきました。

武道に限らず、先達の歩んでこられた道を思う時、その険しさ、困難さ、そして精神性の高さに感動します。
武道という素晴らしい道の端っこをヨタヨタ歩き続けている私でも、いつか「武道とはこんなものだよ」といえる時がくるでしょうか。

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