支部長雑感

認識、認容

2019年07月11日

大学時代の勉強で、特に刑法の授業で「認識、認容」という言葉がよく出てきました。当時の私の頭では、このうちの「認容」の意味がなかなか理解できませんでした。

今日は、この「認識、認容」について考えたいと思っております。

第1例
先代館長時代のある時期、九州北地区の昇級審査日のことでした。その日は、審査後に、先代館長(以下、館長とします)を囲んで懇親会がありました。それはある焼肉店で行われました。
熊本支部からは、山内文孝前支部長(以下、支部長とします)と私が参加しました。
参加者は、館長以下20名ほどでした。
懇親会が始まりました。
宴会は座敷でありました。長い一列のテーブルに館長がその真ん中に座られました。よく人から、館長は会合のときいつも端の方で全体が見渡せるところに座られると聞いていましたが、この日は真ん中でした。

館長との食事です。参加した各支部の門下生の表情は当然ながら固く、そして、全員正座をしておりました。
「おい、みんな、足崩せよ~!」と先代館長が、宴会始まってまもなく参加者に話しかけられました。
みんな、ホッしたように足を崩しました。
和やかに宴会は進みました。
宴の終わりの方では、リラックスして立て膝をする者さえいました。

私は支部長と少し離れて座っていました。館長の「足崩せよ」のお言葉のあと、チラッと支部長を見ると、支部長は足を崩しておられませんでした。正座を続けておられました。
私も正座を続けました。
これは、以前より支部長から、時と場所によって、己自身で自分の行動を御することを教え込まれたことによるもので、私もさすがに館長の前で足を崩すことはとてもできないと考えました(拙文「おまえはダメだ」2014年4月8日参照)。

30分ほど経ちました。
館長は、未だに正座を続けている者がいることを既に知っておられました。
「足、くずせよ~」
と再び話されたのです。
正座をしていたのは、支部長と私だけです。
しかし、館長の視線は定まった方角に向いているわけではありませんでした。あくまで全体に向けて、として話されました。館長は鋭いお方でしたが、分かってても分かったふりをされないようなところもあられました。
その後も、そして宴会が終わる2時間後まで、私達は足を崩すことはありませんでした。

お話が長くなりすみません。
第1例での「認識、認容」について以下のように考えます。
まず、館長は「山内ともう1人は宴会の間ずっと正座を続けているぞ」と認識されました。
ここからは憶測ですが、館長は「山内ならこんな時、そうするだろうな。もうなおさら言う必要もないな」と認容されたと思います。

認識と認容の違いはこのようなものではないでしょうか。


第2例
日本の代表的な刑法学者に団藤重光という先生がおられました。
団藤先生が東京帝大在学中、刑法の授業を牧野英一先生から受けました。
牧野先生は、これまた世界的な刑法学者であり、日本の刑法学の父とも言われた方でした。
団藤先生は、非常な努力家で、特に尊敬以上に崇拝しておられた牧野先生の学説を猛勉強の上に完全に理解されておりました。

以下、団藤先生の自伝からの引用です。
「六高から一緒に入った仲間が、牧野刑法がよくわからないというので、説明してやると、ああそうかとようやくわかって、試験になったらその男は優をとりました。
ところが、私は、良だったんです(笑い)。私は、先生のいうとおりのことを答案に書くのは下らないという頭があった。
(中略)
先生は―自分のことを「牧野」とおっしゃるのですが―『牧野の刑法で優を取るには、牧野の学説がよくわかった上で、これを換骨奪胎して書かねば駄目じゃ』ということをいわれたのですが、私のは換骨奪胎ではなくて、先生を批判したのです。そして、先生の学説はわかっていたつもりですけれども、私はわかったことは書かない。それは当然なことだと思っていますからね。そういうわけで、私が教えてやった友人は優を貰って、私は良でしたよ(笑い)。」(「わが心の旅路」昭和63年3月10日初版第3刷発行 有斐閣 46頁)

第2例での「認識、認容」は、以下のようなものでしょう。
牧野先生は、団藤先生の書かれた答案を見て「この生徒は、牧野刑法をよく理解しているな」と認識されました。
そして、「しかし、わしの説を批判するとは生意気じゃ。これには優はやれん」と思われて良にされた。この答案にあらわれた団藤先生のお考えを牧野先生は認容されませんでした。


どうでしょうか。
私が学生時代に悩んだ「認識、認容」についての理解、現在の私はこのように考えております。
合ってますでしょうか(苦笑)。

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