支部長雑感

残り物には・・・

2020年05月13日

2012年7月、山内文孝前熊本支部長(以下、支部長とします)の初七日法要の日のことです。
ご生前に指導を受けた4人の道場生でご遺族宅へお参りに行きました。
Oさん、Aさん、K君、そして私でした。

ご生前、支部長は稽古の際、道場生に声をかけるとき、決して名前を呼び捨てにはされませんでした。年齢に関係なく「さん」「君」付けで呼ばれていました。
しかし、私たちだけには違っていて呼び捨てでした。この4人は支部長に最も長くご指導を受けていましたので、それだけに近しいお気持ちで接して頂いていたのだと思います。

さて、無事に法要を終え、ご遺族の方から、支部長の遺品を少し頂けるということになり、至極神妙な気持ちで我々はそれらを頂くことになりました。
もちろん、武道に関するものが中心でした。
木刀やヌンチャク、鍛錬器具、武道関連の本などでした。
頂いたものは、後で4人で分けようということで、その場ではまとめて頂くことになりました。

いろいろ頂いたのち、私はふと、支部長の手裏剣のことを思い出しました。晩年、支部長は手裏剣の稽古を熱心に続けておられました。使っておられた手裏剣はご自身の手に馴染む手製、つまり自作されたものでした。いわゆる棒手裏剣でした。

そこで、ご遺族に私は「あの、ちょっと失礼します」と言って、ご自宅の庭先に行き、小さい倉庫の棚の隅に手を差し込みました。
外からは全く見えないところに、支部長は手裏剣をおいておられたのです。
ご生前、私がご自宅を訪ねると、よく支部長がその棚から手裏剣を取り出し、技を披露してくださっていました。
そして、この手裏剣も頂けることになりました。手裏剣は7,8本ありました。

ところで、支部長の手裏剣の技法は「直打法」と呼ばれているものでした。
支部長の投げる手裏剣の威力にはすごいものがありました。
手から放たれた手裏剣がまっすぐ的に向かっていき、「ドカッ!」というすごい音をたて突き刺さるのです。その刺さった手裏剣は的から抜こうにもなかなか抜けないほどでした。


時間も過ぎ、ご遺族に挨拶をし、ご自宅を辞して、4人で熊本支部の道場に向かいました。
道場に着いて、遺品を4人で分けることになりました。
とくに、武道関連の本は数が多く、それぞれたくさん分けることができました。私以外の3人が思い思い欲しい物を選んで、その残りの物は私が引き取りました。
本の中には先代館長の名著「実戦!芦原カラテ基本編」、「実戦!芦原カラテ基礎編」もありましたが、もちろん私たち4人は各々以前より持っておりましたので、誰も欲しがらずにその場に残りました。

そして、先ほどお話しました手裏剣です。
これには、K君が「手裏剣、自分にもください」と言ってきました。
私の本心を正直に言いますと、この手裏剣に関しては、支部長の自作ということ、また手裏剣稽古に対する支部長の思いを知っていたこともあって、すべて私が引き取りたかったのです。
しかし、後輩のK君からお願いされ、当たり前ですが嫌とは言えませんでした。

私は「あぁ、もちろん良いよ」と言いました。
手裏剣の入った箱の中から、K君は手裏剣を選びます。
「・・・」
その光景を私は見守ってます。
そして、3本選びました。
K君は「いただきます。ありがとうございます」と言いました。

ご遺族から支部長の遺品をいろいろ頂くことができ、そして我ら4人で分けることができて本当に良かったです。

……
3人は帰っていきました。
その後、私は道場で残った遺品の整理をしました。
分けているときに気づいていたことですが、K君が選んだ手裏剣は、普段支部長が使っておられた3本ではなかったのです。それらは綺麗なままの手裏剣でした。
残った手裏剣は、いつもずっと支部長が使われておられた(すなわち手垢にまみれた)ものでした。
私は、その数本を知っていたので、それらを選ばれてしまうのが不安だったのです。せこいと思われるかもしれませんが、正直なところ、ホッとしたのです。
K君、ごめん。
残り物には福がありました。

それだけではありません。
誰も欲しがらずに手元に残った「実戦!芦原カラテ基本編」同じく「基礎編」は、なんと直接先代館長から支部長に贈られたものだと言うことが後でわかったのです。

それは、初七日法要の日から数カ月後のことです。
支部内の本の整理をしようと思い、なにげなくこの「実戦!芦原カラテ」2冊を手に取り、パラパラと中をめくっていたら、表表紙の裏に先代館長の直筆サインが2冊ともにあったのです。もちろんこれらは初版本でした。
かねてより、先代館長はご自身の著作本が出ると、古くからの直弟子には、それぞれ本にサインをされてお送りになられていたのだと思います。

またまた、残り物には福が・・・ということになりました。
しかし、これらの品は私のものというより、支部長が一から育てた芦原会館熊本支部の宝物として、これからも大事にしていこうと思っております。

押忍