支部長雑感

決まりを破って

2023年05月21日

2013年7月、この「支部長雑感」を始めるときに、どのようなブログにしていくかを考えました。
そして、書いてはいけないこととして、
1.イデオロギーに触れる話をしない
2.人の悪口を言わない
3.自慢話をしない
とすることを決めました。
これまでの10年間、なるべくこの3項目を守ってきたつもりです。

ここにいうイデオロギーは、いわゆる政治思想や社会思想のことだと思ってください。これを、憲法19条におけるような「内心の自由」全般と捉えてしまうと、拙文は「武道精神的」イデオロギー色の強いお話ばかりになってしまいますので、このところはご理解のほどお願いいたします。
この雑感をいわゆる政治的イデオロギーの披瀝の場所とすることは、空手道場のHPとして、また、信条とする「価値相対主義の実践」にそぐわないものだと考えております。

ところで、なぜ改めてこの雑感においての「三原則」を申したかというと、今回はこの自らの禁を破ることになると思っているからです。
お見苦しい話にはならないように気をつけますので、どうかお付き合いください。

……
前回において、日本企業の経営者のあり方について、自分なりの考えを書かせていただきました。
今回はその続きのようなものです。

私は在籍していた会社で、長年、取締役を務めてきました。
この会社の行っている主な営業は、税務上いわゆる特定業種に指定されており、その実、事前告知なしで管轄税務署からの立ち入り調査を受ける立場にありました。
無告知での調査とは、日頃の業務をしているある日、いきなり立ち入りで税務調査を受けることになり、それについて文句を言えないというものです。
簡単にいうと、あなた達の業種はよく脱税するでしょう、だからいきなり立ち入らせてもらいますよ、ごまかしはさせませんよということです。

過去、取締役在任中、税務署からの調査を3回、国税の立ち入りを1度受けました。
なかでも、国税の立ち入りは、本社・4つの店舗・4名いる取締役の各自宅に、調査当日の朝8時30分ちょうどに、一斉に立ち入るというものでした。それぞれの場所に3名~6名の国税官を配置していましたので、相当な人数での立ち入り調査でありました。また、あとから聞いたところによると、この時の立ち入りは、かなり以前から極秘裏に、各店舗の売上や取締役たち個々人の身辺調査を重ねた上での立ち入りだったとのことでした。
しかし、これらは国税の立ち入りとしてはごく普通のことですので、びっくりするようなことではありません。
このときにも面白い出来事がありましたが、それはまた別の機会にお話させていただきたいと思います。

さて、本題です。
私の取締役在任中の最後の税務調査は、もう10年以上前のことになります。この時、私は社長でした。
前述のように、所轄の税務署からの複数名(5~6人だったと思います)で構成された調査チームが、いきなり本社に入ってきました。
調査班のリーダーとおぼしき方から「〇〇税務署の者です。税務調査にきました。」と言われ、身分証を提示されました。
当たり前ですが、オフィスにいた社員たちはびっくりし、そして動揺してしまいました。
私はすぐに、過去の時と同じく、長年顧問をお願いしている税理士の先生(以下、税理士とします)に連絡して、税務調査が来た旨を伝えました。
税理士は急いで駆けつけてくれました。

調査が始まりました。
税務署の調査チームが手分けして、本社オフィスにある多くの書類を調べ、寄り分けをして、その中から必要な書類を持ち出し、外の駐車場に停めてある税務署の車に積み込んでいきました。
過去にも経験があるとはいうものの、調査は嫌なものです。
正直、いつも喉が乾きます。

今回も私は努めて調査に協力しました。
社員たちにも同様の指示をしました。
言われた書類は躊躇なく提出し、聞かれた質問にはすすんで答えました。
至極当然、何も悪いことはしていないのですから、経営者として、自身の心のあり方のままに対応しました。
税理士も、私のそばについていてくれました。

調査は2時間以上続きました。
そして、あらかためぼしい書類・USBメモリー等のデータを運び出したところで、現場での調査は終わりました。

例のリーダーの方(寡黙な感じの人でした)が私に、
「立ち入りは終わりました。これからお預かりした書類等を調査させていただきます。そして、何か疑問が出てきましたらご連絡いたします。」
と言われました。
そうして、リーダーと調査班の方々は事務所を出ていきました。
残った我々はようやくホッとすることができました。
すると、付き添ってくれていた税理士が、駐車場に向かう税務署の調査班のあとを追って部屋を出ていかれました。
私は事務所に残っていました。

しばらくして、税理士が事務所に戻ってこられました。
私は「何かあったのですか。」と尋ねました。

税理士はこう答えました。
「調査のリーダーの方に、ひとこと言いたくてあとを追いました。」
「で、『ここの社長は、脱税をするような人物ではありません』とだけ言いました。」
「すると、そのリーダーがですね、『顔を見ればわかります』と私に言ったんですよ。」


例に漏れず、私は調査の対象であり、疑う相手であります。
立ち入り先で数多くの経営者を見てきたであろう、それに相対(あいたい)する立場の人からこのような言葉を聞くことができるとは。

なぜか嬉しかったです。
いまでもよく思い出す光景です。

今回、みずからの禁を破りましたが、今日のお話は、私の人生においての数少ない自慢話の一つでした。

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