支部長雑感

目の前の損

2023年12月21日

道場や支部の懇親会の席で、よく「目の前の損は、人生の損ではない」という話をしております。
これは、私がかなり以前より実感してきたことで、偉そうですが私の人生哲学です。
目の前の小さな利益にこだわって、策を弄してそれを得たとしても、人生のプラスにはならない。自分が正しいと思うことを信じて、たとえそれが一時の損になることでも、信じた道を歩くことが肝要だという考え方です。

例えとして適当ではないかもしれませんが。
20年以上前、私が役員を勤めていた会社が、ある年にかなりの利益をあげました。当然、決算後、然るべき金額を税金として納めなくてはなりません。
そこで、決算期を前にして、取締役会で税金対策が話し合われました。
節税のやり方は数多くありますが、やはり手っ取り早いのは買い物でしょう。
保険商品、設備投資、福利厚生、社用車などの購入です。
くだんの取締役会でも、何を買うかが主な議題となっていました。

これらの購入は、会社として必要であれば当然なことですが、しかし、私はこれを殊税金対策として行うことには、昔から違和感を持っておりました。
そこで、私は会議で「税金を払えば、お金が貯まります」と発言しました。
他の役員からは失笑が漏れました。
いかに税金を安くするかを話し合っているのに、税金を払えというのですから。

結局、その年はいろいろと設備や社用車などを購入して、いくばくかの節税をなしました。
しかし、ご存知のように、減価償却には法定年数があります。節税対策で税金を払わなくて済んでも、それ以上に現金が減るか、負債が増えます。

このときの税金対策が原因ではないのですが、会社は数年後、経営危機に陥りました。
その時、会社を立て直すための資金は著しく不足していました。


ところで、かのイトーヨーカドーやセブンイレブンの創業者伊藤雅俊氏は、受け継いだ家業である小物売りの店を日本最大手のスーパー・コンビニチェーンに育て上げました。
そのイトーヨーカドーのある年の決算においての話です。
破竹の勢いで会社規模を伸ばしてきたイトーヨーカドーです。その年も対前年比で、売上が相当伸びました。
しかし、利益率を見ると前年より若干下がっていたそうです。
それを確認した伊藤氏は、新年度のスローガンを次のように決めました。
「荒天に備えよ」と。

また、京セラ、KDDI、日本航空の社長を勤め上げた稲盛和夫氏は、日本がバブル景気に大いに盛り上がっていた1980年代後半、多くの大企業が不動産投資に血道を上げていたときでも、不動産には見向きもしなかったそうです。
「汗水たらして働いてこそ価値がある。労せずして儲かるというのは間違っている」と。
バブル崩壊後の日本経済の停滞は、ご承知のとおりです。名のある大企業や金融機関などの多くの法人は、倒産の憂き目に、そうでなくても返しきれないほどの大きな損失、処理できないくらいの不良債権を抱えることになりました。
しかし、稲盛氏の京セラには何の被害もありませんでした。

こうしてみると、両氏のお考えには、共通したところがあると思います。
それは、目の前の利益に一喜一憂するのではなく、ご自身の努力や経験を通じて、人としての本質を備えることにより、会社経営にとって何が一番大切なのかを見誤らなかったということでしょうか。

どうしても、人は目の前の利益にとらわれがちです。成功か否かを短期的な損得で評価してしまいます。
しかし、日々の努力を通じて、何が自分の生き方として正しいかを体得することにより、「目の前の損は、人生の損ではない」という選択が、時と場合によってはできるようになると思っています。

今年ももうすぐ終わりです。
しかし、自分を鍛える日々に終わりはありません。
それは来年も続きます。

良い年をお迎え下さい。

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