支部長雑感

稽古前の稽古

2022年10月24日

私は、芦原会館に1987年7月に入門しました。
「ケンカ十段 芦原英幸」先代館長に憧れての入門でした。
私が入った熊本支部は、改めてご紹介いたしますが、山内文孝という先代館長の片腕の一人と呼ばれた方が支部長を務められていました(「流浪空手」1981年11月10日初版 スポーツライフ社 180頁)。

支部長は、普段とても静かな方でした。しかし、空手の指導となると、たいへん熱心に道場生に当たられていました。

さて、空手界でその名も高き芦原会館に入門したのですから、入った途端に強くなります。
と、いうのは全くの嘘です。簡単に強くなるわけはありません。
当たり前ですが、日々の稽古は地味なもので、その繰り返しとなります。

私は入門して間もなく、7時30分から始まる道場に、7時には入るようになりました。
そして、自主稽古を30分ほど行い、それから本稽古となりました。
程なく、支部長は、私が早く道場に来て一人稽古をしているのに気づかれ、いろいろ指導をしてくださるようになりました。
ある時、早めに来られた支部長が、自主稽古をしている私に、
「瀬野、これからしばらくは、稽古前は前蹴りだけをしろ」
と言われました。
「押忍!」
私は、元気よく返事をしました。
それからの稽古前の稽古は、前蹴りだけになりました。

普段、稽古前、他の道場生も自主稽古をします。
もちろん、それぞれ思い思いの突き蹴りやコンビネーションなどをやっています。
入門間もない私には、先輩方のそれらが格好良く、とても魅力的なものに映りました。
しかし、私は、言われた通り、前蹴りだけの練習です。
ん~、つまらない。
本当にそう思いました。
横目で、先輩方が楽しそうに稽古をしているのを羨ましく思いながら、前蹴り前蹴り前蹴りです。

日が経ち、1ヶ月ほど後、支部長が私に、
「前蹴りを見せてみろ」
と言われました。
私が前蹴りを繰り出すと、いたらない部分を注意、指導してくださりました。
それからまた、1ヶ月ほどして、同じく私の前蹴りを見ていただきました。そしてまた指導をいただきました。
その後も、これが続きました。

入門から6ヶ月ほど経ちました。
支部長の許しをいただいて、稽古前の稽古の技が、次の技に移行しました。その時、私は腰に緑帯(4級)を締めていました。
嬉しかったです。
地味な稽古にみえたものが、実は身になり、結果として現れることが分かってきました。
新しく指示された技も、新鮮な気持ちで取り組むことができました。

今回言いたかったことは、武道の技というものは、そんな簡単に身につくものではないけれど、技一つに集中してひたすら繰り返すと、いつの間にかその技は自分の技になっていて、そして、身についたそれは、その後の武道的身体操作に綿々と続いていくものだということです。
このことを、支部長から入門間もないときに教わったことは、私のその後の空手人生の大きな財産になったと思います。

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