支部長雑感

そっちには行けない

2017年12月13日

私は芦原会館に1987年7月に入門しましたが、その年の秋、他流派を経験した者が熊本支部に入ってきました。
当時私は6級でした。
彼は、身長はそれほどでもありませんでしたが、筋肉質でごつい人でした。
ある日、稽古の合間の休憩中に2人で話をしていました。
話は、下半身の鍛錬についてでした。
彼は「スクワット1000回など簡単っすよ」と言っていました。
私は、芦原会館に入門して4、5ヶ月。道場稽古以外にも張り切って自主トレーニングをしていましたが、もともと線の細い男でしたので、筋力を付けるのには苦労していました。
そこにつけての彼の言葉です。
それまで、空手の技術を使いこなすには、当然筋力が必要で、そのためには人より数値的に大きい力が必要だと思っていました。しかし、当時の私は、スクワットにおいては200回から300回くらいで音を上げる程度の力でした。したがって、このような発言にショックでした。
もちろん、フルコンタクト空手の世界では、スクワット300キロ、ベンチプレス200キロを挙げる選手も存在することは知っておりました。しかし、肉体的に自分を大きく上回る人間を目の当たりにしてしまうと、自身の空手の方向性を真剣に考えさせられることになりました。

私は、「俺はそっちの方向には行けないな」と直感的に悟ってしまいました。

今後、何年と筋力鍛錬を続けても、もともと体格差や筋力差がある者との差は縮まることはないのではないか。
そこで、考えを変えました。
動きの中で使える筋肉を鍛えれば、数値的に大きく差がある相手にも伍することが出来るのではと考えました。
芦原空手という独自の技術的思考を持つ流派に属していることで、このような考え方を自由に発展させることができたのだと思います。
先代館長や現館長がお持ちの「技術に関する自由な発想」にも合致すると思います。

こんな気持ちに落ち着いた後は、なんとか試行錯誤してそのための稽古方法を見つけていきました。そして、このことは自分の性格や自身の特性を見つめる良いきっかけになりました。

稽古の中心は、具体的には腰の鍛錬を中心にしたものになりました。これはごく自然な流れでありました。

このような思考と実践の参考として、とくに動きの中での鍛錬をおこなわれた先達として、不世出の横綱双葉山関がおられます。
少し長いですが、横綱のお話を引用させていただきます。
「わたしは技倆においても、体力においても、べつだん衆にすぐれた素質があったわけではありません。ことに腕力にかけては、むしろ弱いほうだったといってもいいでしょう。もしいくらかでも取柄があったとすれば、少年時代の海上生活で身につけることのできた『腰の力』―詳しくいえば腰から下の安定感、つまり小舟で櫓をこぐときの腰と足の爪先、とくに親指との『力』のコンビネーションがものをいったことで、腰の重い点ではいささか自信もあったわけです」(「映像で見る国技大相撲」第18号14頁 ベースボール・マガジン社 引用元は『横綱の品格』同社刊)

武道の良いところは、戦う相手達との相対的な関係を意識することで、稽古を通じて自分自身の特性を理解していくことができることではないでしょうか。

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